河野義行氏(元長野県公安委員・松本サリン事件被害者 (R・S・C顧問)基調講演 

今、R・S・Cの代表理事と福島大臣の話があった中で官,民、何が出来るか、こんな話がありました。たとえばそんな中で法テラスを知っているのは半分ぐらいの人しか知らなかった。こんな状況だったですね。今、犯罪被害者の支援組織は各都道府県の中では警察本部の犯罪被害者支援室というものがあります。また、民間団体もほとんどの都道府県で設置している。あるいは法テラスや地検とかいろいろな所があるわけですが、なかなか被害者がそこにたどりつけないんですね。それはどういうことかといいますと、組織は作ったけれども広報の予算がないんですね、R・S・Cも広報費というのはほとんどありません。皆さんからの寄付を集めて検診を何とか続けて来たという状況です。

たとえば事件が起きますと事件報道がありますよね、そうした時にたとえばメディアのほうで、テレビならテレビニュースの中で、被害で困っている人はこういうところが相談窓口でありますよという文字でも入れてくれれば非常にアクセスしやすいと思うんです。
それから警察の被害者支援室に行くといった時、敷居が高いんです。被害者が構えてしまうんですね、そういう意味では民間のほうが入りやすいということですので、まずアクセス面では民が頑張っていただいたほうがいいんじゃないかとそんなふうに思います。それから警察の場合は被害者支援室があるんですけれども、スタッフは専門家ではありません。たとえば交通課からの転勤や、刑事課から来たりします。そして3年ぐらいで又転勤していく、そういう状況です。そうしますとなかなか習熟という意味では専門家になり得ないんですね、そういう意味では民間のほうがずうっと同じ人がやっているということですので、民間のほうに頑張ってもらったほうがいいんじゃないか、そんな思いを持っています。
私は松本サリン事件の被害者なんですけど、何で被害者支援をやっているの?こんな話が出て来るわけですね。私は1994年6月突然松本サリン事件に巻き込まれまして、5人家族でしたけれども4人が入院しました。そして妻は事件発生から心肺停止し、14年間意識が戻らない状況が続き、一昨年8月に亡くなったわけです。そんな中で犯罪被害者が受ける被害、いろいろあるけれども、まず経済的な被害というのが襲って来たんですね、それは治療費だったんです。ちょうど入院から一週間経った時、病院から請求書がきました。一週間の治療費総額300万円だったんです。保険がありますので、当時は2割の自己負担でした。それでも一週間に60万円の自己負担をしないといけないという状況になる訳ですね、それ以後も自己負担は月に15万円ぐらいずっと続いていく、さらに自分は仕事が出来ない。そういう状態が9ヶ月続いたわけです。そうしますと私は当時サラリーマンですけれども普通に給料をもらってもいっぱい、いっぱい、というのが現状なんですね、そんな中で6割の給金でやっていかなければいけない。しかも医療費が15万円ぐらいかかってくる、いわゆる経済的な被害がありました。そして入院した妻は一年後ですけれども身体障害者、一種一級に認定されました。障害者に認定されたということは、もう治らないということになるんですね、医療費は軽減されたわけですけれども、回復のためのお金は結構かかったわけです。

ちょうど事件から10年経った時に、領収書が全部残っていますので、一体どれぐらい自己負担したのかと計算したら2000万円を超えていました。そんな中で犯罪被害者等給付金というものを請求しまして、裁定されて出てきた金額が417万円でした。417万円がどの程度の金額かといいますと、私が東京に妻を2回入院させたことがあり、2回の入院期間は合計で4ヶ月間でした。4ヶ月の差額ベッド代で終ってしまったんですね。それで国は支援したという話になっていたから、犯罪被害の経験なんてありませんので、こんなものかなあとそういう思いが当時はありました。
そんな中でオウム真理教が表に出て、実行犯の人が逮捕され、起訴されました。私は希望すれば裁判が当然傍聴出来るものと思いまして裁判所に電話するわけです。そうしたら、裁判所は、裁判というのは公開ですからご自由に傍聴できますが、傍聴者が多い場合は抽選になりますよと言われました。言ってみれば当事者でも自分の関連した法廷にも入れない、そういう状態だったんですね、すごく違和感がありました。これはのちに法が改正されて、被害者の優先傍聴が認めらるようになりましたけれど、被害者にとってあまりにも理不尽じゃないの?何もしてくれないんじゃないの?そういう思いがあったわけです。
大勢の被害者が出ている、そんな中で国は被害者の調査もやっていかない、そういう状況でした。誰も何もやらないのなら自分達でやらないとしょうがないか、という所から実は被害者支援がスタートしているわけですね。当時、有志の人がいまして、そしてピアニストの遠藤郁子さんがチャリティーコンサートに参加されました。その収益金をベースに被害者の支援というものを着手してこれまでになっているわけです。ですから自分の支援参加への動機というのは、言ってみれば国は何もしないなのならとり合えず自分の所からしよう、そんな所から始まりました。そしてずっと支援を続ける中で、実は被害者同士もお互いに助けられるんじゃないか、そういう体験をしております。
それは地下鉄サリン事件から10年絶った時にウオーキングをやったわけですね。これまでは被害者の方が自分の被害に遭った地下鉄の駅に入っていけない、一種のPTSDだと思いますけど、そういう中で被害者が皆で歩いて地下鉄の駅に入っていくと行けた人が随分いたんです。その被害者の方が自分はここで実は倒れていたんだ、泣いている方もいました。そうしますと被害者同士が集まる、あるいはただ歩くだけでもそういう効果はあるわけですね、ましてや自分の悲しみとかあるいは苦しみとかそういう情報を共有する、そのことによっても随分癒されるそういう姿を見て来ております。そうしますと、官が民がという前に、被害者同士が集まるだけでも癒しになるのではないかとそんな風に思っています。

それからいろんな被害者支援というのは言ってみれば始まったばかり、やっと今2期という話も出ておりましたけれども、そんな中で私はこれはやらなければいけないという思いがあります。それは例えば犯罪で被害を受けた時に加害者が判っている場合は、加害者に対して民事裁判を起こして判決をもってその被害を補いなさいというのが国の基本的な考えなんですね、ところが現状はどうなのかといったときに、加害者が判っていて裁判を起こし、裁判に勝っても、被害者は言ってみれば何の救済にならないというのが現状なんです。それはどういうことかいいますと、加害者に支払い能力がないというケースが圧倒的に多いということです。被害者は国の方針に従って加害者に対して裁判を起こし勝訴しても、なお且つそれで救済されるどころか訴訟費用は持ち出し、これ現状ですね。そうしますとやはりやっていかなければいけないこと、少なくとも国の方針で裁判をやって勝訴の判決を取ったなら、それが反映されるようなシステムか法律を私は作るべきだとそういう思いです。日本の警察は都道府県単位ということですから、都道府県でもいいです。例えば、犯罪被害保険みたいな形で県民税から薄く資金を集めて、それを原資として保険のような形で運用していくとか、そういうことでもやっていかないと何の為の裁判なんだというのが実感です。

それから、私が公安委員をやっている時に体験した中で、こんな問題もありました。たとえば自分は犯罪によって被害を受けたから犯罪被害者だと思っていても、それを決めるのは誰かということなんです。犯罪被害者であるということを決めるのは警察が決めていくわけです。そうしますと警察が間違える、こういうケースがあったんです。
この方は殺されたけれども、自殺ということで警察は処理をしてしまって、23年絶った時にそうでないということが判ったケースです。
あるいは、自分は被害者だけれども加害者として扱われてしまった事例。それは、愛知県と長野県の連続4件の殺人事件がありました。この時に殺された人の遺族が疑われてしまいました。実は私もそのケースでした。

最後にもう一つの事例を紹介し、問題提起したいと思います。それは長野県の塩尻という所に奈良井川という川があるんです。そこで男女の焼死体が上がったわけです。警察はこれを事件と心中、両面で捜査を開始するわけです。しかし結論が出ていないんです。そうしますと犯罪被害者なのかあるいは心中なのかわからない、わからないというところでとまってしまうケースもあるわけです。犯罪被害者支援といいながら実は犯罪被害者かどうかわらない、どうするの?そういう問題が出て来たんですね、そうするとある期間経ってわからない時、それは犯罪被害者とすると定義しなければ、支援団体も動けないということです。この事例のように被害者と認定する裏づけ証拠がないというケースもあるわけです。そうした時にその人を5年も10年も15年もそのままおいていいのか、そういう問題です。

それからリカバリー・サポート・センターはこれからどうしましょう?という話がありますが、やはり一番の特徴というのは、スタッフに専門家が揃っているんですね、毒ガスの専門家の黒岩先生、あるいは聖路加病院の石松先生、あるいは大学の医学部の先生などさまざまなスタッフがいます。そうしますとサリン事件の被害者というのはおそらくどこかで終っていくわけです。終っていくというのは、私は被害を受けた時は44歳、今60歳、あと何年かすればおそらく死んでいきます。サリン被害者も亡くなっていく、そういう意味です。リカバリー・サポート・センターはサリン被害者だけではなくて定款には一般の犯罪被害者の支援も行うということになっています。そうしますと一番動きやすいのはいろいろな分野の専門家がいるということです。代表は弁護士ですし、一元化という話が出ておりましたが、リカバリー・サポート・センターに話が来た時にそれは法的な問題なのか、医学的な問題なのか、精神的な問題なのかそういうものの中でアドバイスが的確に出来るのがリカバリー・サポート・センターではないかと思います。特徴を最大限生かし、他の支援団体とリンクし、支援を継続して行くことが大切だと思います。

以上

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